初夏になると、毎年学校の周辺で過剰なスズメバチ駆除が行われる。確かに刺されると命に関わる場合もあるので、十分注意は必要だが、なんだかそれじゃあ味気なさすぎる。自分はいつも、彼女らの一生懸命さには感服しているのだが、多くの人はそうじゃない。やはり針を持ち、積極的に攻撃を仕掛けてくるイメージで恐怖の対象なのだ。
■本当に取りに来て・・・???
千歳市のある炉端焼きの店。そこで偶然知り合った新しい友人から電話。「家にスズメバチの巣ができているようなのです、本当に取りに来てくれますか?」もちろん喜んで出向きます。初夏のスズメバチは女王が必死に巣作り。万が一自分が殺されると大変なので、案外用心深く、襲って来ることも少ない。2L のペットボトルに切れ目を入れただけの捕獲装置(w)を持っていくと「え?? 正気ですか?」と。彼の仕事は日本の国を守る公務員。余裕ですと、脚立に登って5秒で回収。あ、ちなみに、親は巣をこんな感じで守っている。
■巣の中では
「育てて蜂蜜を取りましょうよ!」という生徒もいるが、スズメバチはそうはならない。駆除した巣を観察するとこんな感じ。
この幼虫たちが羽化してしまうとちょっと大変。彼女らは捨て身で攻撃をして来るからだ。それにしてもこのきっちりと並ぶ様子。お見事としか言えない。
親はせっせと運んで来たコンチュウなどの肉を与えるのだ。蜂の子は取れても蜂蜜は取れないのだ。
「せっせと」と言えば家族の増え方にあわせて巨大化させる巣。この素材は成虫がかじりとった木。つまりパルプだ。小さな体で作り上げた巣はよくみるともうアートの世界。色調を変えて不思議な模様を作り出す。薄くて軽くて・・・これを元にして考え出されたのが紙だ。
■紙の発明
フランスのレオミュール 。彼は穴のあいた金属の筒に肉を詰め、タカに飲ませた。しばらくたって、それを引っ張り出し、中の肉を見てみると溶けている。消化酵素の発見だ。そんな無茶な実験をした彼の数多の功績のうちの一つが紙の発見だ。スズメバチが巣を作る様子を観察して、こりゃ人間にもできそうと提案。それを知ったドイツ人のシェッフェルがスズメバチの巣から紙を作ることに成功したのだ。レオミュール の消化の実験を自分の体でやろうとは思わないが、せっかくスズメバチの巣があるんだからハチとの共同作業を開始だ。
■スズメバチの巣から紙を作る
せっかく成形されたスズメバチの巣だが、まずは水をかけてみる。
おー超撥水。雨風が当たらない軒先などに巣を作るコガタスズメバチなのに多少の雨ではビクともしないようだ・・・。一晩水につけて置いても全く変化なし。
ミツバチの巣は蜜蝋でできている。そのロウを溶かしてwaxとして利用したり、クレヨンを作ったり、ハンドクリームやリップクリームにしたり様々な活用方法がある。
それと比べりゃスズメバチの巣はただの木屑の塊だと思って始めたがなかなか奥が深そうだ。申し訳ないが、巣をビーカーで茹でてみる。この超撥水はロウでも含んでいる可能性もあるからだ。予想に反して水に色はつくものの、ロウらしき成分はさっぱり。ますます撥水効果の謎が深まる。
まあ、それでも仕方がないので網を使って紙すき。なかなかうまくいかない。(写真6)せっかくなので、牛乳パックもリサイクル。バラバラにしてパルプも準備、スズメバチの巣を混ぜ合わせ乾燥させたらおしゃれ紙になるはずだ。
左は牛乳パック由来のパルプを追加したもので、右がせっかくスズメバチが作ってくれた巣を分解してパルプにして再形成したもの。もちろん勝てっこなし・・・。
結局、スズメバチの巣を紙にしてみたが、結論はハチには勝てないということ。人間は動物が作り出すいろいろなものを利用してきたが、ミツバチの巣を有効活用しているのに、スズメバチの巣を使えないのにはそれなりの理由がありそうだ。
巧妙な巣の撥水性や彼女らの勤勉さ、社会性を目の当たりにすると、ろくに働きもせず、産卵管が変化した針もないので戦えず、子孫を増やすときの短期間だけ重宝されるオスには、同じオスとして哀愁すら感じてしまうのだ。